外耳炎は、犬が発症しやすい耳の病気です。
再発を繰り返しやすいため、「お薬が合ってない?」「動物病院を変えるべき?」など、不安を抱えている飼い主さんもいるのではないでしょうか。
愛犬の外耳炎が完治しないのは、お薬の耐性や耳の中の腫瘍が原因かもしれません。
この記事では、しつこい外耳炎の原因や治療法のほか、数年がかりで外耳炎を治療したスタッフの実体験を紹介します。
愛犬を不快な症状から一日も早く解放してあげたい飼い主さんは、ぜひ参考にしてください。
目次
犬の外耳炎について
外耳炎とは、耳の入り口から鼓膜までの部分(耳道)に炎症が起こる病気です。
犬によく起こる病気で、かゆみなどの不快な症状によりQOL(生活の質)が著しく低下します。
外耳炎は進行度によって状態が変わりますが、この記事の中では「急性」「慢性」「難治性」の3段階に分けて説明します。
急性外耳炎
急性外耳炎は、発症から1~2週間ほどの外耳炎。
耳のかゆみや赤み、耳道の腫れ、耳垢が出るなど、比較的軽度の症状がみられます。
適切に治療をおこなえば、短期間で症状を抑えることが可能なケースもあります。
慢性外耳炎
慢性外耳炎は、急性外耳炎がうまく治らず長期化してしまった状態です。
目安として、1ヶ月以上治らないと慢性化しやすくなります。
慢性化すると、耳の皮膚が黒くなる、皮膚が腫れて厚くなるなどの症状がみられるようになります。
とくに皮膚が腫れると耳道が狭くなり、耳垢が排出されにくくなってさらに炎症が悪化していきます。
難治性外耳炎
外耳炎が治らない、または繰り返すケースは難治性外耳炎の可能性があります。
外耳炎を引き起こしている菌が薬に耐性をもっているケースや、耳道内の腫瘍が邪魔して薬が効かなくなっているケースが考えられます。
こうなると、内科的治療の効果は十分に得られません。
そのため半年以上、あるいは数年単位で症状が重症化していくことになります。
>>何年もかけて外耳炎治療をした体験談は記事後半をご覧ください。
繰り返す外耳炎は『難治性外耳炎』かも
愛犬が再発を繰り返す、治療してもなかなか治らないという場合は、難治性外耳炎になっているかもしれません。
外耳炎は、さまざまな原因が複雑に絡み合って発症します。
その原因に合わせて対処しなければ快方に向かうことはなく、放置しても自然に治癒することはないのです。
次章では、外耳炎の原因について詳しく解説します。
犬の外耳炎の原因は4つに分かれる
犬の外耳炎は、原因がとても複雑に絡み合っています。
以下の4つは、外耳炎の原因をわかりやすく整理した、PSPP分類と呼ばれるものです。
犬の外耳炎におけるPSPP分類 | |
---|---|
△画像をタップすると詳しい解説にジャンプします
原因に合わせた対処をすることが、改善への近道になります。
それぞれの原因について、詳しくみていきましょう。
主因(Primary)
主因とは、外耳炎の最も重要な原因のこと。これだけで外耳炎を引き起こします。
- アレルギー(アトピー、食物アレルギー)
- 脂漏症
- 異物(毛、腫瘤、植物)
- ミミヒゼンダニ(耳ダニ)
- 内分泌疾患(甲状腺機能低下症、クッシング症候群など)
これらの主因には、それぞれに応じた対処が欠かせません。
たとえばアレルギーならアレルゲンの除去や食事療法、ミミヒゼンダニならダニの駆除が必要です。
ただ、アレルギーや脂漏症のように元々の体質に左右される場合の完治は難しいかもしれませんが、症状のコントロールは可能なケースが多いです。
副因(Secondary causes)
副因とは、外耳炎を発症した結果として起こるものです。
これだけで外耳炎になることはなく、主因をコントロールすることで改善できます。
- 細菌
- マラセチア
- 過度な耳洗浄など
上記のような細菌やマラセチアには、抗菌剤などを使って対処することが可能です。
増悪因(Perpetuating factors)
増悪因とは、外耳炎を悪化させる要因のことです。
これ単体で外耳炎になることはありませんが、細菌の増殖や炎症を悪化させて外耳炎の治りを悪くさせます。
- 耳道が腫れて狭くなる
- 耳垢の増加
- 中耳炎
こうした要因には、腫れを抑える処置や洗浄などで対処して、症状の改善を促すことが大切です。
素因(Predisposing factors)
素因とは、外耳炎の発症リスクを高めてしまう要因です。
耳の構造的な問題や、気温などの外部環境に起因します。
- 耳の形状の問題(垂れ耳、耳道が狭いなど)
- 環境(梅雨、高温多湿など)
- 耳の病変(腫瘍、ポリープなど)
これらの要因があると、外耳炎が治りにくい、あるいは再発しやすい状況に陥ります。
完全に排除することは難しいため、日ごろからケアをしてあげることが大切です。
繰り返す外耳炎に対する治療法
外耳炎の基本的な治療は「耳洗浄」と「点耳薬」です。
しかしこうした治療は、難治性の外耳炎では効かなくなります。
- 薬に耐性ができる
- 腫瘍や腫れで耳道が狭くなる
このような場合は、次のような一歩踏み込んだ治療を検討することになります。
麻酔下での耳洗浄
まずは、麻酔をした状態での徹底した耳洗浄です。
通常の耳洗浄は、麻酔をかけずおこないます。
しかし犬が嫌がったり、どうしても奥まで洗浄できなかったりするケースがあります。
そんなときは麻酔をして、オトスコープ(耳の内視鏡)を使って細部まで確認しながら洗浄します。
耳に水を満たし、チューブを入れて吸引しながら汚れを除去。鉗子で耳に入り込んだ被毛をつかんで除去することもあり、耳道を徹底的にきれいにすることができます。
耳道がすっきりすると、すぐに症状が改善することも珍しくありません。
参考
Otitis Externa in the Dog(外部リンク)
薬剤感受性試験
薬剤感受性試験とは、愛犬の耳にいる細菌・真菌に効果がある薬(抗菌剤)を特定する試験のことです。
難治性外耳炎は、使用中の薬に対して菌が耐性をもっている可能性があります。
この場合は、薬剤感受性検査をおこなって愛犬に効果がある薬を特定し、その薬で治療することになります。
検査するときは、動物病院で耳垢を採取するだけ。外部機関に検査を依頼する病院が多いため、結果が出るまで数日かかることが多いです。
『緑膿菌』に注意
細菌の中でもとくに厄介なのが「緑膿菌」。
さまざまな薬に耐性をもっている菌で、薬が効かないことが多いです。
軽度の外耳炎ではあまりみられない菌ですが、6ヶ月以上続く外耳炎では53%に緑膿菌が検出されたとの報告も。
慢性化するほど緑膿菌の検出確率が高まるため、薬剤感受性試験による精密な治療が必要となります。
参考
多剤耐性緑膿菌により慢性外耳炎を呈した犬の1例(外部リンク)
外科的処置
投薬や耳洗浄でコントロールできないときは、外科的処置が選択されます。
耳道が腫れてしまい、洗浄も投薬もできないほど重症化したケースなどが当てはまります。
おもな手術方法としては、耳道を取り除いてしまう方法(全外耳道切除術)や、耳道にできた腫瘍を切除する方法があります。
手術費用は、10~20万円ほどとなることが多いようです。
参考
犬の慢性難治性外耳道炎に外科的処置を施した3例(外部リンク)
両側の全耳道切除術を行ったアメリカンコッカースパニエルの1例(外部リンク)
難治性外耳炎が完治するまでの期間
ここまでに紹介した「麻酔下での耳洗浄」「薬剤感受性試験」「外科的処置」といった治療法に効果があれば、治療からまもなく改善するケースがほとんどです。
このうち外科的処置をおこなった場合は、1週間ほどの入院や投薬を経て、軽快していくことが多いようです。
犬の外耳炎の予防方法
犬の外耳炎を完全に予防する方法はありませんが、定期的な耳洗浄は有効といえます。
耳洗浄は自宅でもできますが、動物病院で適切な方法で洗浄してもらうとより効果的です。
費用の目安は、1回で1,000~2,000円ほどです。
このほか、シャンプーやプールのあとは水気が残らないようにしっかり拭く、耳に異物が入らないよう散歩中は深い草むらを避けるといったことも予防になります。
愛犬の耳は毎日チェックして、異変があればすぐに動物病院を受診しましょう。
外耳炎が治っても維持療法は必要
しつこい外耳炎は、一度きりの治療では完治しないケースがほとんどです。
まずはしっかり治療をして治しますが、治ったあとも症状をコントロールする必要があります。
こうした長期的な維持療法は「プロアクティブ療法」といって、外耳炎の場合では、週1回の点耳薬の投与を続ける、耳洗浄を定期的におこなうなどが考えられます。
放っておくとぶり返す可能性が高い外耳炎は、長期的に予防することが重要です。
何年もかかった外耳炎治療【スタッフ実体験】
ここからは、ぽちたまスタッフの飼い犬(ミニチュア・ダックスフンド10歳)が実際に体験した外耳炎治療について紹介します。
【3歳ころ発症】
アトピーが原因の外耳炎になる。かゆみ、赤み、異臭、耳垢の増加がみられる。
▼▼▼
【A病院に通院】
アトピー治療に加えて、点耳薬とステロイドの塗り薬で外耳炎治療を継続。かろうじて症状を抑えているだけで、改善の兆しはない。
▼▼▼
【9歳で悪化・B病院に転院】
ある日突然耳から膿があふれる。B病院に転院して、麻酔なしの耳洗浄と点耳薬、スキンケア用の療養食で治療開始。
▼▼▼
【著しく改善】
耳洗浄した直後から耳を掻く仕草が激減。ついでアトピーのかゆみも落ちついた様子。
▼▼▼
【維持療法を継続】
その後は2~3ヶ月に1回、B病院で耳洗浄を継続。ほとんど症状はない。
このように、数年がかりで外耳炎と向き合ってきたぽちたまスタッフと愛犬。長い外耳炎治療を通して強く感じたのは、セカンドオピニオンの重要性です。
当初通っていたA病院では耳洗浄を一切しなかったため、点耳薬を入れても効果が得られなかったのかもしれません。
転院先のB病院で耳を診てもらったところ、耳道が赤く腫れて膿でドロドロの状態。いくつもポリープができていたとのことでした。
幸い手術にならずに済みましたが、転院が遅れていたらもっとひどくなっていたかもしれません。
獣医師によって治療方針は違いますし、得意分野も異なります。どうにも治らないときは、別の動物病院へのセカンドオピニオンや転院も選択肢に入れてみてほしいです。
治療に使っていたミミピュアについては、こちらのコラムで紹介しています。
外耳炎以外にミニチュア・ダックスフンドがなりやすい病気は、こちらをご覧ください。
治らない外耳炎には一歩踏み込んだ治療が必要
外耳炎は再発を起こしやすい厄介な病気です。
再発を繰り返す、なかなか治らないというときは、以下のようなさまざまな要因が複雑に絡み合って、難治性外耳炎になっている可能性があります。
その場合は、しっかりと原因を特定したうえで、一歩踏み込んだ治療をおこなう必要があるかもしれません。
しつこい外耳炎は簡単に完治しないため、根気強くケアを続けましょう。
ペットのお薬通販『ぽちたま薬局』スタッフのブログです。
このブログではペットのご飯を中心にペットの健康について考えたいと思います。