犬のレプトスピラ症は細菌感染症の1つで、軽症で済むことも多いものの、治療が遅れると死に至る危険がある恐ろしい病気です。
この病気は全国で毎年30件ほど発生しており、2016年には沖縄で、2017年には大阪で集団感染が確認されています。
このうち大阪の集団感染では、11頭中9頭が死亡。決して油断できない病気であることがわかります。
本記事では、そんなレプトスピラ症の症状や他の犬や人への感染リスクを紹介。
あわせて有効な治療法やワクチンでの予防法も紹介するので、愛犬をレプトスピラ症から守りたい飼い主さんはぜひ参考にしてください。
目次
犬のレプトスピラ症とは
犬のレプトスピラ症は、「レプトスピラ」というらせん菌(らせん状の形状をした細菌)に感染することで起こる感染症です。
病原性と非病原性にわかれ、さらに250種類以上の血清型に分かれます。
このうち犬に感染するレプトスピラとして、カニコーラやイクテロヘモラジー、ポモナといった血清型が確認されています。
おもな感染経路は、保菌する野ネズミなどの野生動物。
こうした野生動物の尿で汚染された河川の水や土壌に接触すると、皮膚や粘膜、口などから感染します。
レプトスピラ症の症状
レプトスピラ症は、感染しても症状が出ない、あるいは少し熱が出る程度で自然に回復するケースも多いようです。
ただし無症状のまま尿中に菌を排出することがあり、家族の感染源になることもあるため注意が必要です。
一方で発症する場合は、数日~14日ほどの潜伏期間を経て、次のような症状があらわれます。
- 発熱
- 嘔吐
- 粘膜の充出血
- 黄疸
レプトスピラ症は肝臓や腎臓にとくに大きな打撃を与え、黄疸や出血のほか、急性の肝不全や腎不全を引き起こすことも。
さらに、血管内に血栓ができやすくなる「DIC(播種性血管内凝固)」になると、突然死などの末期的な状態に陥ります。
犬のレプトスピラ症の致死率
国立感染症研究所によると、レプトスピラ症の犬の致死率は53%。
「甚急性型」というもっとも進行が速いタイプを発症すると、36時間~4日ほどで死亡してしまうこともあります。
治療が遅れると死に至る危険が高まるため、疑わしい症状があるときは早く動物病院に相談しましょう。
参考
イヌのレプトスピラ感染|国立感染症研究所(外部リンク)
レプトスピラ症は犬から犬、犬から人に感染する
レプトスピラ症は、「犬から人」に感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)に分類されます。
さらに「犬から犬」にも感染するため、飼い主さんはもちろん、多頭飼育しているご家庭では同居犬への感染対策も必要です。
レプトスピラ菌はおしっこと一緒に排出されるため、愛犬のトイレ掃除をするときは細心の注意を払うようにしてください。
ちなみに人間は保菌者とはならず、「人から人」の感染も稀だとされています。
参考
犬のレプトスピラ症とその対応について(2017)|公益社団法人大阪府獣医師会(外部PDFリンク)
同居犬がいる場合は要注意
レプトスピラ症に感染した犬と一緒に暮らす犬には、感染を防ぐために予防的な治療が推奨されます。
予防にはドキシサイクリンという抗生剤をもちいて、1日2回ずつ2週間投与します。
同居犬がいる場合は、獣医師さんに必ず申告するようにしてください。
犬のレプトスピラ症は治る?治療法は?
犬のレプトスピラ症は、適切に治療すれば治る病気です。
治療法としては、ドキシサイクリンという抗生物質の投薬が基本。
このほか、アモキシシリンやアジスロマイシンといった抗生剤も有効です。
重度の場合にはペニシリンの投与や輸液療法、血液透析、酸素吸入など、症状を和らげるための対症療法がおこなわれます。
犬のレプトスピラ症の発生エリア
日本全国で毎年30件ほど発生するレプトスピラ症。
どのエリアで発生しているのか、厚生労働省のデータから直近年に発生実績があるエリアを抽出してご紹介します。
発生エリア | 2023年 | 2022年 |
---|---|---|
北海道 | 0頭 | 1頭 |
岩手県 | 3頭 | 0頭 |
宮城県 | 3頭 | 0頭 |
栃木県 | 0頭 | 1頭 |
埼玉県 | 1頭 | 3頭 |
千葉県 | 0頭 | 5頭 |
東京都 | 0頭 | 2頭 |
神奈川県 | 4頭 | 3頭 |
福井県 | 0頭 | 1頭 |
静岡県 | 1頭 | 1頭 |
三重県 | 0頭 | 5頭 |
滋賀県 | 4頭 | 2頭 |
大阪府 | 1頭 | 1頭 |
島根県 | 1頭 | 1頭 |
岡山県 | 2頭 | 2頭 |
広島県 | 1頭 | 0頭 |
愛媛県 | 1頭 | 0頭 |
高知県 | 1頭 | 2頭 |
福岡県 | 2頭 | 6頭 |
佐賀県 | 1頭 | 0頭 |
大分県 | 0頭 | 1頭 |
宮崎県 | 0頭 | 1頭 |
合計 | 30頭 | 38頭 |
上記の表をみると、レプトスピラ症が関東より西の地域で多くみられ、なかでも東京や神奈川、福岡などの大都市でコンスタントに発生していることがわかります。
ちなみに発生時期はおもに5~11月で、とくに9月の発症が多くみられます。
参考
監視伝染病の発生状況|厚生労働省(外部リンク)
レプトスピラ症を予防する2つの対策法
愛犬をレプトスピラ症から守るにはどうしたらよいのでしょうか。
ここからは、レプトスピラ症を予防する対策をみていきましょう。
水辺やネズミの生息地に連れて行かない
感染リスクの高い場所に愛犬を連れて行かないことは、もっとも確実な予防法です。
レプトスピラ症は、菌を保有する野生動物や、その尿に汚染された水や土壌から感染します。
こうした場所を避けることで、レプトスピラ症を防ぐことが可能です。
愛犬とキャンプやバーベキューに行くときは、野生動物がいる水辺や土壌に近づかせないように注意しましょう。
混合ワクチンは「8種」か「10種」を選ぶ
狂犬病ワクチンとは別に、混合ワクチンを毎年愛犬に接種させている飼い主さんは多いかと思います。
レプトスピラ症を予防したい場合、この混合ワクチンは8種以上を選ぶようにしましょう。
混合ワクチンは、含まれる抗原の数によって「5種」「6種」「8種」「10種」など、いくつか種類があります。
これらのうちレプトスピラに対応しているのは「8種」と「10種」の混合ワクチンです。
混合ワクチンの種類 | 6種 | 8種 | 10種 |
---|---|---|---|
ジステンパー | 〇 | 〇 | 〇 |
犬伝染性肝炎 (A1) |
〇 | 〇 | 〇 |
犬伝染性喉頭気管炎 (A2) |
〇 | 〇 | 〇 |
犬パラインフルエンザ | 〇 | 〇 | 〇 |
犬パルボウイルス感染症 | 〇 | 〇 | 〇 |
犬コロナウイルス感染症 | 〇 | 〇 | 〇 |
レプトスピラ感染症 (イクテロヘモラジー) |
- | 〇 | 〇 |
レプトスピラ感染症 (カニコーラ) |
- | 〇 | 〇 |
レプトスピラ感染症 (グリッポチフォーサ) |
- | - | 〇 |
レプトスピラ感染症 (ポモナ) |
- | - | 〇 |
とくに以下のような子はレプトスピラ症のリスクが高まるため、8種類以上の混合ワクチンがおすすめです。
- 旅行、キャンプ、ドライブによく行く
- 自宅の周りに野生動物が多い
- 河川や湖の近くに住んでいる
- レプトスピラの発生が多い地域に住んでいる
混合ワクチンは副作用が起こることがある
このように、レプトスピラ症の予防には混合ワクチンが有効です。
しかし、混合ワクチンは含まれる抗原の種類が増えると、そのぶん副作用のリスクも高まります。
居住地域などによっては、レプトスピラ症の予防が必ずしも必要でない場合もあります。
どの混合ワクチンを接種するか迷う場合は、獣医師さんに相談してみましょう。
犬のレプトスピラ症はワクチンで予防できる
犬のレプトスピラ症は野生動物が排出した細菌などが原因で起こる感染症の1つ。発生件数は決して多くなく、無症状や軽症で済むこともあります。
その一方で、重篤化すると愛犬が命の危険にさらされるだけでなく、飼い主さんにも感染リスクがおよぶ恐ろしい病気です。
しかしながら、抗生物質などで適切に治療すれば完治可能ですし、予防するためのワクチンも存在します。
愛犬がつらい思いをしないよう、しっかり予防してあげましょう。
ペットのお薬通販『ぽちたま薬局』スタッフのブログです。
このブログではペットのご飯を中心にペットの健康について考えたいと思います。