僧帽弁閉鎖不全症(そうぼうべんへいさふぜんしょう)は、犬の心臓病の中でもとくに発症率が高い病気です。
初期段階ではほとんど症状があらわれませんが、進行して重症化すると、呼吸困難などが生じ死にいたる場合もあります。
心臓病は、早期発見、早期治療をおこなうことで、進行を遅らせて症状を緩和することができます。
この記事では、犬の心臓病の治療方法と治療薬、日常生活での注意点について解説していきます。
目次
犬の心臓病は治る?寿命は?
心臓病の治療薬は、完全に治すものではなく、心臓の負担を軽減して症状の進行を遅らせることが目的です。
また、自然に治る病気ではないため、医師の指示に従い、適切な治療を一生涯つづける必要があります。
僧帽弁閉鎖不全症は、とくに中高齢の小型犬に多く発症する病気です。
発症後に投薬治療を開始した場合、9ヶ月後の生存率は約50%というデータがでています。
心臓病の一種である心不全を発症した場合は、1年以内に半数以上が死に至り、2年以内にはほとんどの犬が亡くなるという統計も。
心臓病は、聴診によって比較的発見しやすい病気ですが、命に関わる病気だからこそ、早期発見が非常に重要です。
参考
心臓病の診療│南柏たなか動物病院(外部リンク)
犬の心臓病を治療しないとどうなる?
犬の心臓病を放置すると、脳をはじめ、腎臓や肝臓、消化器官、皮膚にまで影響が生じます。
脳は、常に十分なエネルギーと酸素を必要としますが、心臓の働きが低下すると、脳への血流が滞り、失神やけいれんなどが起こりやすくなります。
腎臓もまた、心臓からの血流が滞ることで、食欲不振や活力の低下、嘔吐などが引き起こり、尿毒症になる可能性が高まるのです。
心臓と近い位置にある肝臓においても、血液が滞ることで酸素不足が生じ、正常な機能を果たせなくなります。
この症状をうっ血肝と呼び、肝不全や肝硬変に進展することで、黄疸、肝性脳症、腹水などといった重篤な症状が引き起こされる可能性も。
血流の滞りは胃や腸などの消化器官にまで悪影響を及ぼし、栄養の消化、吸収機能が低下し、下痢や嘔吐を引き起こすこともあります。
同時に、皮膚の弾力や水分量が低下し、体毛の輝きが失われ、筋肉も衰えて外見に変化が生じる可能性もあるのです。
参考
犬・猫の心臓病を治療しない場合のリスク│茶屋ヶ坂動物病院(外部リンク)
犬の心臓病のステージ分類
僧帽弁閉鎖不全症は、進行具合によって5つのステージに分けられます。
それぞれの注意点と治療法は、以下のとおりです。
■ステージA
・心雑音はない
・いつもより元気がない
目立った症状はない
■ステージB1
・ごく軽度の心雑音
・心拍数、呼吸が早い
心雑音は聞こえるようになるが、目立った異常はなし
■ステージB2
・軽度の心雑音
・咳や息切れがある
心雑音が大きくなり、軽度の疲労、咳などの症状がでる
■ステージC
・心雑音がある
・激しい咳、呼吸が早い
心雑音の発生や心拡大が進行し、肺水腫を引き起こし呼吸困難になる場合もある
■ステージD
・心雑音がある
・激しい咳がつづく、呼吸が苦しそう
病態がさらに悪化し、薬を飲んでもコントロールが不可能になる
最悪の場合、死に至る
参考
心臓病・ステージごとの治療方法|ごとふ動物病院(外部リンク)
犬の心臓病の治療方法
犬の僧帽弁閉鎖不全症は、進行度によって治療方法が異なります。
ステージA、およびステージB1においては、治療は必要ありません。
ただし、悪化の予防として定期的な検診をおこなうようにしましょう。
心臓への負担を軽減するために、塩分の摂取を控える食事療法も重要です。
ステージB2に進行すると、お薬を用いた治療がおこなわれます。
治療には、心臓機能を強化する強心剤や、血流を改善して心臓の負担を軽減する血管拡張薬などが使用されます。
ステージCでは、利尿剤や降圧剤が追加され、呼吸が困難な場合には酸素室も検討されます。
肺水腫を発症した場合は、入院治療が必要になることもあるようです。
利尿剤や強心剤、降圧剤などを使用してもコントロールできない場合は、ステージDへ進行します。
この段階では、状況に応じてより高度な治療が必要となります。
参考
犬の僧帽弁閉鎖不全症について | 柴田動物病院(外部リンク)
薬による治療
犬の心臓病の治療には、以下のような薬を使います。
・強心薬
・ACE阻害薬
・降圧剤
・利尿剤
・β遮断薬
これらは血圧の調整や排尿を促進させる働きがあり、結果として心臓の負担軽減につながります。
心臓病を患った犬の状態に応じて、組み合わせや投与量が調整されることがあるため、獣医師の指示にしたがって投与してください。
強心薬
犬の心臓病によく使用される強心薬として、ピモベンダンがあります。
強心薬は、乱れた血圧を正常に戻し、それを維持させることを目的とした治療薬です。
ピモベンダンを投与することで、心臓の収縮力が向上し、血管拡張の効果が期待できます。
これにより、全身の血管が広がり、血液が心臓から全身に適切に送られるように調整ができるのです。
僧帽弁閉鎖不全症の治療において、ピモベンダンは目立った副作用もなく、比較的よく使用される治療薬です。
参考
おくすり110番(外部リンク)
ACE阻害薬(アンギオテンシン変換酵素)
犬の心臓病によく使用されるACE阻害薬として、ベナゼプリル塩酸塩があります。
ACE阻害薬は、血圧を上昇させるホルモンの生成を抑制し、正常な血圧を維持させることができる治療薬です。
ベナゼプリル塩酸塩のACE阻害作用により、血圧の異常な上昇を抑制し、全身の血管が拡張することで血液の流れが改善されます。
適切な血圧を維持することで、心臓病を悪化させない効果が期待できます。
ACE阻害薬は、長期臨床試験において、予後改善効果も証明されています。
参考
おくすり110番(外部リンク)
降圧剤
犬の心臓病によく使用される降圧剤として、アムロジピンがあります。
降圧剤は、血圧を一時的に下げたり、継続したりすることで血圧がコントロールできる治療薬です。
アムロジピンは心臓への血流を促進し、高血圧によって引き起こる各臓器への悪影響を最小限に抑えることができます。
これにより、心臓病だけではなく、腎臓病などの予防にも繋がります。
アムロジピンは降圧剤の中でも効果が強く、鼓動を抑えることで心臓を休ませて、心臓の負担を軽減する効果も期待できます。
参考
おくすり110番(外部リンク)
利尿剤
犬の心臓病によく使用される利尿剤として、トラセミドがあります。
利尿剤は、体内で余分になった水分の排出を促進するお薬です。
心臓病が重篤化すると、肺水腫が引き起こり、これが原因で呼吸困難が生じる危険性があります。
利尿剤であるトラセミドは、とくに強力な作用が期待でき、腎臓に働きかけて尿量を増やします。
これにより、体内に蓄積した余分な水分を排除し、心臓への負担や呼吸困難を緩和する効果が期待できるのです。
参考
おくすり110番(外部リンク)
β遮断薬
犬の心臓病によく使用されるβ遮断薬として、カルベジロールとアテノロールがあります。
β遮断薬は、血圧や心拍数を抑えることができる治療薬です。
カルベジロールは、血管を拡張し心拍を抑えることで、心臓を休ませる効果が期待できます。
アテノロールも同様に、心拍を抑え、異常に上がった血圧を下げる作用があります。
心臓の負担が軽減されることで、症状の緩和が期待され、結果として寿命を延ばすことがでるのです。
参考
カルベジロール│おくすり110番
アテノロール│おくすり110番(外部リンク)
食事療法
お薬での治療とともに、日頃の食事もコントロールする必要があります。
心臓病を患った犬の場合、心筋中のタウリン濃度やL-カルニチンが不足している可能性があります。
また、血液をサラサラにする作用のあるDHAやEPAの濃度も低くなるという報告も。
心臓病の進行を抑制させるためにも、これらの栄養素を積極的に与えるようにしましょう。
控えた方が良い栄養素としては、塩分(ナトリウム)やリンが挙げられます。
塩分やリンは、心臓の機能が低下している場合、うまく排出されず病状をさらに悪化させる危険性があります。
手術
犬の心臓病は、一般的にお薬による治療が主流でしたが、現在では手術も選択肢として導入されるようになっています。
お薬による治療の場合、完治は難しいとされていますが、外科治療をおこなうことで心臓病の症状がなくなり、投薬を減らすことができる可能性も。
しかし、非常に大きなリスクを伴う手術のため、手術費用が高額であり、一部の専門病院でしか実施されていないのが現状です。
また、心臓以外に疾患がある場合は手術が難しいなど、いくつかの課題が挙げられています。
参考
松原動物病院(外部リンク)
犬の心臓病の治療にかかる費用
心臓病の治療費は、進行具合や治療薬の種類などによって異なりますが、一般的には以下のような費用が発生します。
お薬代:3000円~ ※通院1回あたり
術前検査費用:5~7万円
手術費用:150~180万円(税別)
術後の健診費用:3~5万円
そのほか、検査代や診療代がかかる場合があります。
動物病院によっても異なるため、詳細についてはかかりつけの獣医師へ相談しましょう。
参考
動物心臓外科センター
茶屋ヶ坂動物病院(外部リンク)
犬が心臓病と診断されたら気をつけること
愛犬が心臓病と診断された場合、以下に気をつけるようにしましょう。
安心して過ごせる環境や適切な食事を整えることで、症状の緩和に繋がります。
- 激しい運動をさせない
- 徹底した食事管理
- ストレスを溜めさせない
軽度の場合は、とくに制限を設ける必要はありません。
しかし、肺水腫を発症している、動悸や息切れが生じている場合は、安静にさせることがベストです。
激しい運動は心臓に負担をかける可能性があるため、避けましょう。
塩分の多い食事は、心臓に大きな負担をかける可能性があります。
ドッグフードを選ぶ際は、塩分の量に気を付けましょう。
また、人間の食べ物には多量の塩分が含まれているため、絶対に与えないようにしてください。
ストレスを受けると血圧が上昇し、心臓に負担をかける危険性があります。
入浴やトリミングなど、普段のケアもストレスとなる可能性も。
愛犬の反応や様子を観察し、できるだけリラックスさせる工夫をしましょう。
参考
南が丘動物病院(外部リンク)
まとめ
・犬の心臓病は発症率の高い病気であり、重症化すると死にいたることもある
・自然に治る病気ではないため、適切な治療を一生涯つづける必要がある
・放置すると、脳をはじめ、腎臓や肝臓、消化器官、皮膚にも悪影響が生じる
・進行具合によって5つのステージに分けられて、治療方法が異なってくる
・手術も一つの選択肢だが、大きなリスクを伴い非常に高額となる
・日頃から、激しい運動や食事管理、ストレスに気を付ける必要がある
犬の心臓病は、早期発見、早期治療をおこなうことで、進行を遅らせて症状を緩和することができる病気です。
愛犬と過ごせる時間をできるだけ長くするために、治療だけでなく日常生活でも注意深く過ごしましょう。
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