愛犬が留守番中に過剰に吠えたり、トイレの失敗が増えたりするときは「分離不安」のサインかもしれません。
犬の分離不安とは、飼い主さんと離れることで強いストレスを感じ、さまざまな問題行動を起こす病気です。
分離不安の治し方としては、行動療法と薬物療法の併用が基本になります。
そこで本記事では、分離不安の症状チェックリストとあわせて、分離不安の治し方やトレーニング方法、よくつかわれるお薬について紹介します。
目次
犬の分離不安の症状チェックリスト
まずは愛犬が分離不安になっているか、シチュエーション別のチェックリストで確認してみましょう。
- ドア、床、家具などを噛んだり引っかいたりする
- トイレ以外の場所で排泄する
- 過剰に吠える
- 飼い主につきまとう
- 飼い主の関心を引こうとする
- 外出する準備に気づくと落ちつかなくなる
- 飼い主が帰宅すると過剰に喜ぶ
- 皮膚炎を起こすほど足を舐める
- 食欲がなくなる
- 嘔吐や下痢をする
- よだれを垂らす
これらの行動に多く該当する犬は、分離不安になっている可能性があります。
分離不安は性別や年齢に関係なく、飼い主さんへの依存が強い子が発症しやすいと考えられています。
分離不安の犬は、ひとりでいることに強いストレスを感じて苦しんでいる可能性があるため、疑われる場合は改善してあげることが大切です。
犬の分離不安の治し方
分離不安治療の中心は『行動療法』と『トレーニング』。軽度のうちは、これらだけで改善することがあります。
しかし、重症になると『薬物療法』との併用が推奨されます。
その場合でも、お薬だけでは根本的な改善は見込めないため、薬物療法と並行してトレーニングもおこなう必要があります。
では具体的な治し方をみていきましょう。
行動療法
行動療法は、飼い主さんに対する依存心を減らして、愛犬の自立を促すことで分離不安を治す方法です。
この方法は分離不安治療のメインとなるもので、最も重要なものとなります。
シチュエーションにあわせて、以下のような対策をとってみましょう。
一緒にいるとき
愛犬の要求には応えないことを意識しましょう。
愛犬が遊んでほしくて飛びついてきたり、撫でてほしいと催促したりしても、すぐには対応してはいけません。
遊ぶ、触れる、ご飯をあげるなどの行為は、愛犬に催促されておこなうのではなく、すべての飼い主さんのタイミングでおこないましょう。
「自分の思いどおりにならないこともある」と理解すると、留守番中に飼い主がいなくてもあきらめがつきやすくなります。
愛犬が理性的な行動ができるように、必ず飼い主さんの意思で動くようにしてください。
外出するとき
外出前は愛犬との接触をできるだけ減らしましょう。
出かける30分ほど前から無視する、もしくは愛犬と目を合わせないようにします。
「行ってくるよ!」「すぐ帰るからね!」などと構ってしまうのは禁物です。
このとき、飼い主さんの匂いがついた靴下やパジャマ、おもちゃ、知育トイなどを置くと、自然と愛犬の注意をそらすことができます。
こうした対策をしながら、まずは短時間の留守番に慣れさせ、少しずつ時間を延ばしていきましょう。
帰宅したとき
帰宅時は、興奮した愛犬が落ちつくまで構わないことが大切です。
愛犬から「遊んで!触って!」と催促されても、静かになるまで一切関心を向けてはいけません。
もし家具を破壊したりトイレを失敗したりしていても、叱るのは避けましょう。
時間が経つとなぜ叱られているのか愛犬は理解できず、ただ恐怖を与えるだけです。
家中がどんな惨状になっていても、ぐっとこらえて黙って片づけましょう。
分離不安の集中トレーニング
こうした行動療法に加えて、分離不安の集中トレーニングも効果的。詳しいトレーニング方法は次のとおりです。
分離不安の集中トレーニング
1:出かけるそぶりを見せて、すぐイスに座る
2:玄関を開閉して、すぐイスに座る
3:玄関外に一歩出て、すぐ室内に入る
4:外に出てドアを閉め、すぐにまた家の中に入る
5:1~4のフローを愛犬が落ちついていられるようになるまで繰り返す
6:愛犬に「すぐ戻るよ」と声をかけてから外に出て、1分後に戻る
7:少しずつ時間を延ばしながら、10分間待てるようになるまで繰り返す
こうしたトレーニングは、愛犬がリラックスしている状態でおこなうようにしましょう。
30~90分をひとりで過ごせるようになると、さらに長い時間のお留守番ができるようになることが多いようです。
参考
犬の分離不安症|セパレーション・アングザエティ(外部PDFリンク)
薬物療法
薬物療法は、上記のような行動療法やトレーニングと併せておこうお薬を使った治療方法。
とくに、重症の場合は薬物療法を併用するケースが多いです。
「お薬」というと抵抗感をおぼえる飼い主さんもいるかもしれません。
しかし、お薬は愛犬の不安を素早く軽減させ、行動療法の効果をより早く得られるようにしてくれます。
こうしたお薬の目的は、「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌を増やすこと。
セロトニンが増えれば不安軽減につながるため、愛犬も穏やかな気持ちを取り戻しやすくなるのです。
犬によく使われる分離不安のお薬・サプリ
犬の分離不安の治療でよく使われるお薬としては、次のようなものがあります。
お薬名 | トラゾドン | デジレル | クロフラニール | パキシルジェネリック | アダプティル | ジルケーン |
---|---|---|---|---|---|---|
パッケージ | 引用:ADAPTIL公式サイト | 引用:ジルケーン公式サイト | ||||
タイプ | お薬 | お薬 | お薬 | お薬 | 犬専用スプレー(お薬ではありません) | サプリメント |
おもな成分 | トラゾドン塩酸塩 | トラゾドン塩酸塩 | クロミプラミン塩酸塩 | パロキセチン | 犬アピージングフェロモン類縁化合物 | カゼイン(トリプシン加水分解牛由来カゼイン) |
特徴 | ペットの不安やストレス軽減、夜泣きにも効果がある | 抗うつ薬のひとつで分離不安や認知症治療に使われる | 脳内のセロトニンに作用して分離不安などの症状を改善する | 不安障害のほか、過度なグルーミングや尿スプレーにも有効 | 子犬を安心させるために母犬が発するフェロモンの成分を応用 | ミルク由来のやさしい成分でつくられたカプセルタイプのサプリメント |
価格 | 6,600円 | 4,200円 | 3,400円 | 2,800円 | 3,960円など | 2,790円など |
詳細ページ |
これらは抗うつ剤や抗不安剤、あるいは抗不安作用のあるサプリメントなどです。
お薬の種類や与える用量用法などは、獣医師さんと相談して検討しましょう。
参考
動物の不安症状と薬物治療について|鳥取大学(外部PDFリンク)
犬の分離不安はどのくらいで治る?再発は?
行動療法と薬物療法を併用した場合、1ヶ月で70〜80%、3ヶ月で80〜90%が改善したとするデータがあります。
適切な治療をすれば、おおむね改善が見込めることがわかります。
このとき大切になるのが、治療の中心はお薬ではなくあくまで行動療法であること。
行動療法が十分でないと症状は改善しませんし、治ったとしても再発する可能性が高くなります。
また、お薬によっては3ヶ月以上の長期服用ができないものもあります。
お薬だけに頼らず、トレーニングで根本的な治療をしっかりおこなうことが重要です。
参考
クロミカルム錠(R)5mg|クロミカルム錠(R)20mg(外部PDFリンク)
犬の分離不安を治すときの注意点
犬の分離不安が治るまで時間がかかります。トレーニングがうまくいかなくても焦らないことが重要です。
頭ごなしに愛犬を叱りつけると、恐怖心を植えつけるだけで逆効果になりかねません。
そもそも、犬のしつけは時間がかかります。
分離不安を治すとなれば難易度が高まり、さらに時間がかかることが想定されます。
だからこそ、日ごろから愛犬の自立心をはぐくむ暮らし方を心がけ、分離不安を予防することが大切です。
犬を分離不安にさせない暮らし方
いちど犬が分離不安になると、飼い主だけでなく愛犬にとっても大きなストレスになります。
甘えん坊やわがままな性格など、分離不安になりやすい傾向がある子は、普段から次のようなポイントを意識しましょう。
しつけをする
意外かもしれませんが、愛犬にしつけをすることは分離不安の予防につながります。
しつけのトレーニングをした犬はストレスレベルが低く、不安にもなりにくいとされているのです。
実際にある研究では、トレーニング後の犬はストレスホルモンであるコルチゾールが約20%低下したとの結果が出ています。
また、しつけを通じて飼い主さんが主導権を握ることも、分離不安の予防に効果的です。
参考
Training Reduces Stress in Human-Socialised Wolves to the Same Degree as in Dogs(外部リンク)
発散させる
お留守番の前に散歩したり、遊んだりして体力を発散させましょう。
知育トイやノーズワークで頭を使わせることも有効です。
ほどよい疲労感があれば、愛犬はお留守番のときによく眠れるようになります。
このようにして、ひとりで寂しいと感じる時間を減らしてあげましょう。
ひとりに慣れさせる
分離不安を予防するには、普段から適度な距離感を保つことが大切。
一緒にいるときも、べったりと近づきすぎてはいけません。
飼い主さんと愛犬が別々のスペースや別室で過ごす時間を設けてみましょう。
まずは数秒から始めて、少しずつ時間を延ばすのもよいかもしれません。
こうすることで、愛犬に「ひとりでいることは特別なことではない」と覚えさせましょう。
犬の分離不安はトレーニングとお薬で治す
犬の分離不安の治療において、最も重要なのはトレーニング。
軽度であれば、行動療法とトレーニングだけで改善できますが、重症の場合は難易度が高いため、薬物療法も必要になる場合があります。
薬物療法では幸せホルモンを増やし、愛犬の不安を軽減させることで、行動療法よりも早く効果的に治療できます。
犬の分離不安は行動療法を中心に、焦らずじっくりと取り組むことが大切です。
改善されない場合は獣医師さんに相談し、必要に応じてお薬の使用も検討してみましょう。
ペットのお薬通販『ぽちたま薬局』スタッフのブログです。
このブログではペットのご飯を中心にペットの健康について考えたいと思います。