肺水腫は単独でかかることはめったになく、ほとんどが心臓病の合併症として発症します。
犬がかかることの多い病気といえば心臓病ですが、心臓病にかかった犬は、肺水腫になり最期を苦しんで迎えるケースが報告されています。
心臓の病気や肺水腫の原因は予防できるものもあります。
たとえばフィラリア症などがありますが、他にも心臓病以外の熱中症といった症状から発症する肺水腫も予防できるのです。
犬が肺水腫で苦しまないためにも、原因と予防法を把握することが大事です。
目次
肺水腫の症状
肺水腫は毛細血管から血液が漏れ出て、重要な肺の機能である呼吸を妨げる病気です。
重症の場合は命に関わります。
以下のような症状には注意してください。
■呼吸の症状
呼吸困難、口を開けたまま息をしている、興奮時の咳、泡状の鼻水が出ている
■行動の症状
食欲がない、元気がない、不眠、落ち着きがなく歩き回る、横になれずに座って苦しそうにしている
■手足の症状
前足が突っ張っている
■口の症状
よだれを垂らしている、歯茎や舌の色が白や紫になっていてチアノーゼ※を起こしている、血液が混じった液体を吐く
※チアノーゼ:血液中に酸素が足りなくなり、皮膚が青っぽくなること
心臓病の合併症である肺水腫は重症になりやすいです。
非心原性肺水腫の症状には軽度から重症なものまであります。
呼吸に関しては以下のように症状の度合いを見分けます。
軽症 | 重症 |
---|---|
運動時に軽い咳が出る | ・呼吸が早くなる ・咳を頻繁にする |
僧帽弁閉鎖不全症の最期の段階に肺水腫になることが多い
僧帽弁閉鎖不全症は、弁膜症ともいわれる心臓の病気です。
キャバリアやシーズー、マルチーズ、ヨークシャー・テリアなどに発症が多いという保険会社の調査もありますが、高齢の動物であれば発症の可能性は高くなります。
この症状が進行したときに、肺水腫が起こるケースが報告されています。
僧帽弁閉鎖不全症から肺水腫へ移行するまで
心臓は血液を送り出すポンプの役目をします。
通常、血液は以下のように心臓から送り出されます。
肺静脈→心臓の左心房へ→左心室へ→大動脈へ→全身を巡る
左心室から左心房へ血液が逆流しないように、僧帽弁という弁があるのです。
この僧帽弁が変性したり、僧帽弁を支える腱索という靭帯が断裂したりして、僧帽弁閉鎖不全症が発症します。
肺水腫に至るまでの流れは以下です。
左心室から左心房へ血液が逆流(症状なし)
↓
逆流した血液により左心房が拡大し気管を圧迫(症状:咳)
↓
送り出す血液量を一定にするため左心室が拡大する(症状:元気喪失)
↓
左心房に繋がる肺静脈が拡張する
↓
肺静脈から肺に血液が漏れ出し、肺水腫になる
僧帽弁閉鎖不全症から肺水腫となった場合の余命
肺水腫を発症すると、余命は6~9ヵ月とされています。
進行の説明であるとおり、僧帽弁閉鎖不全症の発症初期は犬に特に症状は見られませんが、咳や肺水腫などの症状が起こった場合はかなり病状が進行しているためです。
余命を伸ばす選択肢として、心臓手術を選択する場合もあります。
あくまでも一例で、原因や犬の個別の事情によって余命は変わります。
気づかないうちに病状が進行していることもあり得るので、特に犬がかかりやすいとされている僧帽弁閉鎖不全症には常に意識しておく必要があるでしょう。
肺水腫は心臓病の最期以外でも発症する
僧帽弁閉鎖不全症ではない犬でも、肺水腫を発症する可能性はあります。
肺水腫の原因は心原性肺水腫(心臓に関する病気が原因)のものと、非心原性肺水腫があります。
しっかり注意を行き届かせるためにも、両方の原因についてみていきましょう。
心原性肺水腫
心臓から行き場を失った血液が毛細血管をうっ血させるため、肺水腫が起こります。
この心原性肺水腫は、僧帽弁閉鎖不全症以外にも拡張型心筋症の際に起こることが報告されています。
拡張型心筋症は僧帽弁閉鎖不全症と合併することも多い病気です。
心臓が拡大し、筋肉が薄くなることでポンプとして血液を送り出す機能が失われていきます。
※筋肉が厚くなる肥大型心筋症は猫に多く犬にはあまりみられません。
他にも注意すべき犬の心臓病には以下のものがあります。
・三尖弁閉鎖不全
・肺動脈狭窄症
・動脈管開存症
・心室中隔欠損症
・不整脈疾患
・フィラリア症
心臓病が起こる原因はまだ分かっておらず、心臓病に気づく前に急性肺水腫になることもあり、防ぎようがないものも多いです。
しかしフィラリア症なら予防が可能です。
【参考】
犬の拡張型心筋症|あさくさばし動物病院
非心原性肺水腫
まれなことではありますが、熱中症などで肺の毛細血管が傷つき、肺の機能が壊れることがあります。
このような心臓病以外で起こる肺水腫のことを非心原性肺水腫といいます。
原因を以下に挙げます。
・熱中症
・火事や焚火の煙を吸い込み肺の毛細血管に炎症が起こる
・毒物を吸引する
・電気のコードを噛むなどして感電する
・首をひもや首輪で締め付けすぎたことによる気道閉塞
・肺の腫瘍
・重度の炎症
肺水腫の診断と治療
進行の度合いや、原因に応じた正しい治療をするため、獣医師は様々な検査をした後に肺水腫の治療を始めます。
検査ではまず、呼吸音を聴診し、獣医師が体の状態をチェックします。
詳しく肺の状態を見るために、超音波検査、緊急な状態にならないと判断されればレントゲン検査も行われるでしょう。
心臓由来の肺水腫の場合には、心電図検査も必要です。
その他血液、尿を検査することもあります。
急性の場合
治療については、急性肺水腫の場合は酸素が足りない状態なので、酸素吸入で延命措置が行われます。
呼吸困難をおこす急性の場合は、一刻を争う事態です。
病院に急行すると同時に動物病院ですぐに対応できるように、事前に連絡します。
治療
治療は軽度~重度、心原性肺水腫か非心原性肺水腫かで、投薬などの治療方針が決まります。
肺胞に液体が溜まっているため、利尿剤を投与し、尿で液体を排出させることも必要です。
重症だと、非心原性であっても心原性であっても入院、酸素室での管理となる場合があります。
利尿剤に加え、血管への負担を軽くするための降圧剤の投与も検討されます。
中程度であれば降圧剤に加えて、酸素を肺に送りやすくするための拡張剤、心臓の収縮力を高める強心剤を投与するかが検討されます。
非心原性で炎症が原因の場合は炎症を抑える薬が投与されます。
肺水腫の予防
肺水腫を予防するためには、心原性肺水腫、非心原性肺水腫の原因に対処しましょう。
肺水腫の原因で多くを占める、僧帽弁閉鎖不全症は、かかりやすい犬種が分かっているとはいえ、加齢によりどんな犬種もかかりやすい病気です。
そのほかの発症要因となる心臓病や腫瘍も原因がはっきりしていないため、予防法が確立していないのが現状です。
しかし、フィラリア症のように防ぐことのできる心臓疾患もありますし、早期発見につなげる手立てはあります。
フィラリア駆除薬の定期投与
フィラリアは心臓の右心室や肺動脈にすみつくので、肺水腫が起こりやすくなる左心房や左心室には直接関係がないように思われるかもしれません。
しかし、フィラリア症の症状でも肺水腫が報告されています。
心臓にすみついたフィラリアが心臓を傷つけ、心不全を起こすためです。
フィラリア症は、他の心臓病とは異なり、定期的に駆除薬を投薬すれば防ぐことのできる病気です。
駆除薬投与時には忘れず投与しましょう。
ぽちたま薬局では病院処方のフィラリア予防薬も扱っています。
定期健診
定期的なワクチン接種のときはもちろん、特に7~8歳のシニア犬になった場合は年に2~3回は動物病院を受診することをおすすめします。
心雑音を聴診してもらい、必要があれば精密検査をしてもらいましょう。
心臓病と診断された場合のためにも、循環器専門の動物病院を調べておくのも対策の一つです。
環境を整える
呼吸における空気の通り道を塞いだり、炎症を起こしたりするような事故を未然に防ぐために、環境を整えておきましょう。
できる対策といえば以下の通りです。
・サイズの合った首輪選び
・庭でホースや紐などを放置しない
・電源コードや差し込みプラグに近づけない
・焚火に近づけない
・散歩コースの異物を片付ける
犬は好奇心の強い動物なので、散歩コースで珍しいものを見つけると臭いを嗅ぐことがあります。
刺激物もありますので、近づいて嗅ぎすぎるのを防ぎましょう。
また、まれに熱中症により肺水腫が起こる場合もあります。
犬にとって快適な温度を把握し、散歩や生活環境を整備することが大切です。
犬に肺水腫で最期を迎えさせないためにできること
肺水腫を発症してしまうと、肺に重大な負担がかかります。
心臓病を未然に防ぐことは難しいですが、苦しい最期を迎えさせないために飼い主さんができることはいくつかあります。
・呼吸やチアノーゼの症状がみられたときはすぐに病院へ
・特に僧帽弁閉鎖不全症に注意する
・心臓病以外でも肺水腫は起こる
・フィラリア症の予防は必ず行う
心臓病にさせないための対策を講じることと、早期発見によって、ワンちゃんの健康を守りましょう。
ぽちたま薬局のライター。犬も猫も大好き!
猫を三匹飼っていて、過去にはうさぎ飼育経験も。