うさぎの目がなんだか前に出てきた気がする、動物病院で「胸腺腫かもしれない」と言われた……。聞きなれない病名だと、よけいに不安になりますよね。
胸腺腫は胸の中にできる腫瘍で、分類上は良性でも、大きくなると呼吸や血の流れを邪魔して命に関わることがあります(Journal of Exotic Pet Medicine)。
押さえておきたいのは次の3つです。
- 典型的なサインは目が前に飛び出すこと。出たり引っ込んだりすることもある → ただし目が出ないまま呼吸が苦しくなる例もある
- 体の外からは触れない → 確かめるにはレントゲンや針を使った検査が必要
- 治療は手術・放射線・ステロイド薬があり、研究でも評価が分かれる → 体力や通える病院の設備も含めて獣医師と相談を

ぽちたま薬局ではうさぎに使用されるお薬も取り扱っています。
目次
すぐ受診したい胸腺腫のサイン
胸腺腫はゆっくり大きくなることが多い腫瘍です(Journal of Exotic Pet Medicine)。ただ、うさぎは被食動物のため、痛みや不調をはっきり表に出さないとされています(MSD獣医マニュアル)。
特に目が前に飛び出して見えるときは、胸の中の腫瘍を疑うサインのひとつです。次のような様子があれば、早めに動物病院へ相談しましょう。

- 目が前に飛び出して見える、目の出方が日によって違う
- 呼吸が速い、苦しそうにしている
- 動きたがらない、少し動くとすぐ休む
- 食欲が落ちた
- 顔・首・前足がむくんで見える
出典:MSD獣医マニュアル「うさぎの感染症以外の病気」/Journal of Exotic Pet Medicine「胸腺腫と診断された飼いうさぎの治療別の経過と生存期間」
食欲が落ちて糞が小さく・少なくなるのは、胸腺腫に限らずうっ滞のサインでもあります。こちらも参考にしてください。
うさぎの胸腺腫とは?
胸腺は、胸の前の方、左右の肺にはさまれた場所(前縦隔)にある臓器です。胸腺腫はこの胸腺の細胞からできる腫瘍で、飼いうさぎでは比較的よく診断されるとされています(Journal of Exotic Pet Medicine)。
MSD獣医マニュアルによると、うさぎの胸の中にできるかたまりで最も多いのは、胸腺腫と胸腺のリンパ腫です。この2つは見分けるのが難しく、区別には針や組織の検査が必要になることが多いとされています。
良性なのに命に関わるのはなぜ?
うさぎの胸腺腫は、ゆっくり大きくなり、周りに入り込むように広がることはあっても、ほかの臓器に転移することはまれとされています。
それでも、胸という限られた空間の中で大きくなること自体が肺や血管を圧迫し、良性に分類される腫瘍でありながら、最終的に命に関わることがあると報告されています(Journal of Exotic Pet Medicine)。
原因はわかる?
今回調べた獣医学の資料では、うさぎの胸腺腫がなぜできるのか、どうすれば防げるのかを示した記載は見つかりませんでした。「飼い方が悪かったから」と自分を責める必要はありません。
胸腺腫で目が飛び出る仕組み
胸腺腫が大きくなると、頭から胸を通って心臓へ戻る血の流れがさまたげられます。すると目の奥にある血管のスペースがふくらみ、目が前に押し出されます(MSD獣医マニュアル)。
うさぎはもともと目の奥の血管のスペースが発達しているため、血がたまると目が大きく押し出されやすいとされています(Lab Animal)。
目の突出は、ずっと続くこともあれば、出たり引っ込んだりすることもあります(MSD獣医マニュアル)。「さっきは出ていたのに今は普通」という場合も、見間違いと決めつけないようにしましょう。
目が出ない胸腺腫もある
一方で、2010年に発表された症例報告では、それまでに報告されたうさぎの胸腺腫の多くで目の突出は見られなかったとまとめられています(Lab Animal)。
目が出ていないからといって、胸腺腫ではないとは言い切れません。呼吸が速い、動きたがらないといったサインだけが出ていることもあります。
目が飛び出る原因は胸腺腫だけではない
うさぎの目が飛び出して見える原因は、胸の腫瘍のほかにもあります。資料に書かれている主なものは次のとおりです。
| 考えられる原因 | 資料に書かれている特徴 | 主な検査 |
|---|---|---|
| 胸の腫瘍(胸腺腫・胸腺のリンパ腫) | 血の流れがさまたげられ、目が押し出される。両目が出ていれば、胸腺腫などを考えるきっかけになる | 胸のレントゲン |
| 目の奥の歯の膿瘍 | 歯の病気による膿のかたまりが、目の奥にできることがある | 歯の検査 |
| 緑内障(牛眼) | 目の中の圧が上がり、眼球そのものが大きくなる。遺伝性で、片目にも両目にも起こる | 眼圧の測定 |
出典:MSD獣医マニュアル「うさぎの感染症以外の病気」/Lab Animal「症例から学ぶ診断 ― うさぎの胸腺腫」
獣医師は、目の弾力や眼圧を調べて、「目が後ろから押し出されている」のか「眼球そのものが大きくなっている」のかを区別します(Lab Animal)。
家で目を押して確かめるのはやめましょう。飛び出した目は傷つきやすく、目を閉じにくくなって角膜を傷めることもあるとされています(MSD獣医マニュアル)。
MSD獣医マニュアルは、涙目や目の突出があるうさぎには歯の検査もすべきだとしています。歯の病気については、こちらで詳しく解説しています。
涙や目やにも一緒に出ているときは、こちらの記事も参考にしてください。
胸腺腫の検査と診断
胸腺腫は体の外から触れないため、動物病院での検査で確かめます。
- 胸のレントゲン検査:MSD獣医マニュアルは、目が飛び出しているうさぎには全例で胸のレントゲン検査を行うべきだとしています
- 針で細胞を取る検査(細胞診):胸のかたまりの細胞を調べ、胸腺腫かリンパ腫かを見分ける手がかりにする
- 組織の検査:細胞診だけでははっきりしないとき、確定のために必要になることがある
細胞診の結果は診断を強く裏づけることがありますが、確定には組織の検査が必要な場合もあるとされています(Journal of Exotic Pet Medicine)。
胸腺のリンパ腫は、胸腺腫に比べて手術で取りきれないことが多く(MSD獣医マニュアル)、どちらなのかは治療を選ぶうえでも大切な情報になります。
また、胸腺腫は症状がないうちに、別の病気の検査や定期的な画像検査で偶然見つかることもあります(Journal of Exotic Pet Medicine)。
胸腺腫の治療法
うさぎの胸腺腫の治療には、主に手術・放射線治療・ステロイド薬の3つがあります。どれが最善かは、研究や資料によって評価が分かれています。

手術は根治をめざせるが評価が分かれる
MSD獣医マニュアルは、胸腺腫は胸の中のほかの大事な構造を巻き込まないため、比較的容易に手術で取れることがあるとしています。
一方、2021年の研究(Journal of Exotic Pet Medicine)は、手術は本当の意味で治せる唯一の方法としつつも、うさぎでは合併症が多く、経験のある外科医がいなければ一般的には勧められないとしています。
この論文が紹介する過去の報告では、胸を開く手術を受けた7匹のうち5匹が手術後3日以内に亡くなり、1匹は6か月後に再発、もう1匹は2年半生きたとされています。
放射線治療は効果の報告も、麻酔のリスクも
MSD獣医マニュアルは、胸への放射線治療を効果的な治療として紹介し、治療後に何年も生きた例があるとしています。
2021年の研究が紹介している過去の報告は、次のとおりです。
- 19匹の報告:多くで症状が改善し、生存期間の中央値は313日。3匹が治療中に急死した
- 15匹の報告(別の照射方法):全例で腫瘍が縮小し、症状も改善。2年ほど追跡しても半数以上が生存しており、治療中に亡くなった例はなかった
一方、その2021年の研究自体の放射線治療グループ(5匹)では、1匹が麻酔の合併症で亡くなり、全体の生存期間は治療しなかったグループと大きな差がありませんでした。
放射線治療は全身麻酔を何度もかけて行うため、そのリスクが生存期間に影響しうると論文は指摘しています(Journal of Exotic Pet Medicine)。
ステロイド薬は体への負担が少ない選択肢
同じ2021年の研究では、ステロイド薬(プレドニゾロン)だけで治療した18匹は、治療しなかった10匹より生存期間が有意に長く、症状も和らぎ、目立った副作用は少なかったと報告されています。
論文は、費用をおさえた選択肢になりうるとしています(Journal of Exotic Pet Medicine)。MSD獣医マニュアルも、手術や放射線が選べない場合に使われて効果があった例を紹介しています。
ただし、ステロイド薬は腫瘍を取り除く治療ではありません。量や使い方は、必ず獣医師の判断に従ってください。
| 治療 | 報告されていること | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 手術 | 取りきれれば治せる唯一の方法とされる | 術後すぐに亡くなる例が多い報告がある。経験のある外科医が必要 |
| 放射線治療 | 腫瘍が小さくなり、症状が改善した報告が多い | 全身麻酔を何度もかける。報告によって結果に差がある |
| ステロイド薬 | 治療しない場合より長く生きたという報告がある | 腫瘍を取り除く治療ではない。使い方は獣医師が判断する |
出典:MSD獣医マニュアル「うさぎの感染症以外の病気」/Journal of Exotic Pet Medicine「胸腺腫と診断された飼いうさぎの治療別の経過と生存期間」
うさぎの胸腺腫の余命は?
いちばん気になるところだと思いますが、胸腺腫の余命は、選んだ治療や腫瘍の大きさ、うさぎの体力によって大きく変わり、ひとつの数字では言えません。
上で紹介した数字も、それぞれ条件の違う少数の報告です。たとえば「中央値313日」は、放射線治療を受けた19匹を生存期間の短い順に並べたとき、真ん中にあたる期間という意味で、治療しない場合の数字ではありません。
一方で、手術で2年半、放射線治療で何年も生きた例も報告されています。
治療しなかった場合にどれくらい生きられるかは、今回確認できた資料の範囲では具体的な期間を示せませんでした。見通しについては、検査結果をもとに担当の獣医師に聞いてみてください。
治療を選ぶときに相談したいこと
胸腺腫の治療に、どのうさぎにも当てはまる正解はありません。獣医師と話すときは、次のような点を確認しておくと選びやすくなります。
- 通える範囲に、うさぎの胸の手術や放射線治療の経験・設備がある病院があるか
- その治療で全身麻酔を何回かけるか。今の体力で耐えられそうか
- 通院の回数と費用。放射線治療は集中的で費用がかかりやすく、ステロイド薬は費用をおさえやすいとされる
- 胸腺腫とリンパ腫の区別がどこまでついているか
通っている病院で難しい治療は、うさぎの診療に詳しい病院への紹介を相談するのもひとつの方法です。
出典:Journal of Exotic Pet Medicine「胸腺腫と診断された飼いうさぎの治療別の経過と生存期間」/MSD獣医マニュアル「うさぎの感染症以外の病気」
家で気をつけたいこと
受診の前も、治療が始まってからも、毎日の様子の記録が獣医師の判断に役立ちます。
- 目の出方と呼吸の様子を、なるべく同じ時間帯にスマホで撮っておく。目の出方は日によって変わることがある
- 食欲、糞の大きさと量、動きたがるかどうかをメモしておく
- 急に呼吸が苦しそうになったときは、様子を見ずに動物病院へ連絡する
治療でお薬を処方されたら、自己判断で量を変えたり、やめたりしないでください。気になる変化があれば、まず獣医師に相談しましょう。
あわせて読みたい
胸腺腫以外に、うさぎにできやすい腫瘍の種類や、しこりにならない腫瘍のサインはこちらでまとめています。
まとめ
- 胸腺腫は胸の中にできる腫瘍。分類上は良性でも、大きくなると命に関わることがある
- 典型的なサインは目が飛び出すこと。出たり引っ込んだりすることもあり、目が出ない例もある
- 目が飛び出す原因は、歯の膿瘍や緑内障のこともある。家で目を押して確かめない
- 確かめるにはレントゲンや針での検査が必要。リンパ腫との区別も治療選びに関わる
- 治療は手術・放射線・ステロイド薬があり、評価が分かれる。体力や病院の設備も含めて獣医師と相談を
ぽちたま薬局ではうさぎに使用されるお薬も取り扱っています。
この記事は獣医学の資料をもとに作成していますが、獣医師の監修は受けていません。症状の判断や治療、お薬の使用については、必ず動物病院にご相談ください。
参考にした資料

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