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イベルメクチンの効果と使い方、注意点について

イベルメクチンはマクロライド系の抗菌薬で、ノーベル生理学医学賞を受賞した北里大学の大村智榮譽教授が、製薬会社との共同研究で創製した抗寄生虫薬です。

もともとは動物のヒゼンダニや糞線虫などの駆虫薬ですが、近年、新型コロナウイルスにも有効だとして一躍脚光を浴びました。

国内でおこなわれた治験でも、残念ながら新型コロナウイルスへの有効性は確認されませんでしたが、日本人の偉大な研究をあらためて見聞きする機会が増えたことは、記憶に新しいところです。

本記事では、イベルメクチンの効果や使い方、注意点などを解説します。

新型コロナウイルスへの効果

イベルメクチンの新型コロナウイルスへの有効性は認められていません。

国内においては、2020年から北里大学と製薬会社が合同でイベルメクチンに対する効果について研究をおこなっていましたが、残念ながら、有効性は認められないとの結果に至りました。

日本国内においてイベルメクチンは、疥癬(かいせん)と腸管糞線虫症(ちょうかんふんせんちゅうしょう)の治療薬として承認されています。

酒さの治療薬としては承認されていませんが、保険適用外でイベルメクチンクリームを用いることがあります。

参考
北里大学イベルメクチン医師主導治験結果に関するお知らせ(外部リンク)

イベルメクチンとは

イベルメクチンは、マクロライド系の抗生物質です。

家畜動物の寄生虫駆除や、寄生虫によって失明やリンパ管への障害が引き起こされる病気「下線盲目症」などの特効薬として、寄生虫による疾患の多いアフリカを中心とした世界中で抗寄生虫薬として使われています。

日本国内では、疥癬と腸管糞線虫症の治療薬として承認されています。

イベルメクチンの効果

イベルメクチンの主な効果は、寄生虫の駆除です。

特に、糞線虫やヒゼンダニなどの寄生虫駆除に高い効果を示します。

投与すると寄生虫に作用して、麻痺を起こさせることで死に至らしめるお薬です。

寄生虫には作用しますが、哺乳動物には影響がないため、安心して投与ができる寄生虫薬として広く使われています。

疥癬(かいせん)

強いかゆみ

疥癬は、ヒゼンダニというダニの一種が、皮膚の角質内に入り込んでトンネルを掘るなどして棲みつくことで起こる、寄生虫による皮膚疾患です。

ヒゼンダニが皮膚に棲みつくと、疥癬トンネルと呼ばれるものを作りながら卵を産んでいき、感染して約1ヶ月後頃から激しいかゆみを発症します。

治療には内服薬と外用薬が使われますが、疥癬の治療には、内服するタイプのイベルメクチンが使われます。

イベルメクチンは、無脊椎動物の神経や筋細胞に作用して駆虫効果を示すお薬のため、疥癬の原因となるヒゼンダニに作用してマヒを起こさせて死滅させます。

ヒゼンダニの卵には効かないと考えられているため、疥癬の治療の際には2週間ほど間隔を空けて2回投与することが多いです。

また、かゆみには効果がないため、フェノトリンやイオウ剤、クロタミトンなどの外用薬が使われます。

参考
疥癬診療ガイドライン(外部リンク)

腸管糞線虫症(ちょうかんふんせんちゅうしょう)

腸管糞線虫症は、亜熱帯地域を中心とした世界中のいたるところで流行している寄生虫による感染症です。

汚れた土に皮膚が触れることで、糞線虫が皮膚を介して体内に侵入し、小腸に棲みつきます。
そして、腹痛や下痢、肺の異常などを引き起こします。

通常は軽い腹痛と軟便程度ですが、免疫力の低下したヒトの体内に入ると症状が重篤化し、虫が増殖するために栄養失調に陥ったり、腸閉塞を引き起こしたりします。

糞線虫は、ヒトの腸の中だけでなく、土の中でも生きられる能力を有しており、土の中で何代か繁殖を繰り返した後、その子孫が人間に接触することで寄生するということもあります。

また、ときには一度排泄された糞線虫が、再度同じヒトの体内に寄生するという自家感染を起こすこともあります。

イベルメクチンは、糞線虫に高い効果を示すため、腸管糞線虫症の際にはよく使われるお薬です。

糞線虫症患者を対象に行った臨床試験において、イベルメクチンを体重1kgあたり約200µgを2週間間隔で2回経口投与したところ、投与4週間後の駆虫率は98.0%と高い水準を示し、イベルメクチンの糞線虫症に対する高い効果を裏付ける結果となりました。

参考
腸管糞線虫症治療薬イベルメクチンの薬理作用-作用メカニズムと臨床試験成績-(外部リンク)

酒さ(しゅさ)

赤ら顔

酒さは、鼻を中心に、頬や眉間、あごなどの、顔の中心部の皮膚が赤くなる「赤ら顔」とも呼ばれる疾患です。

顔の全体に赤みを帯びる、紅斑毛細血管拡張型や、ニキビのような丘疹が盛り上がる丘疹嚢胞型、鼻を中心にコブができる鼻瘤・腫瘤型など、様々なパターンがあります。

酒さが引き起こされる原因は、いまだにはっきりと解明されていません。
ですが近年では、病変部の皮膚において免疫に関与する物質の発現が亢進することや、日光、ストレス、アルコール、気温の寒暖差、デモデックスと呼ばれるニキビダニなどの毛包虫が悪化因子となると考えられています。

日本国内において、イベルメクチンは酒さ治療に対して未承認ですが、アメリカFDA(アメリカ食品医薬品局)では承認されています。

酒さの際にニキビダニが多数検出されることがあるため、その際はニキビダニを死滅させるイベルメクチンクリームが治療に使われることがあります。

酒さの原因となっているニキビダニを減らすとともに、体内の炎症に関係のある物質を作られにくくすることによって、炎症を抑えて酒さを改善します。

参考
丘疹膿疱性酒さの治療におけるイベルメクチンクリームの有効性と安全性(外部リンク)

イベルメクチンの使い方

イベルメクチンの使い方は、以下のとおりです。

・疥癬:イベルメクチンとして体重1kg当たり約200μgを1回経口投与。
・腸管糞線虫症:体重1kg当たり約200μgを2週間間隔で2回経口投与
・酒さ:1日1回、患部を洗浄してからスキンケア後に適量を塗る。

参考
ストロメクトール錠添付文書(外部リンク)

イベルメクチンの副作用と注意点

イベルメクチンの副作用

イベルメクチンは医薬品のため、副作用や、使用にあたっては注意すべき点があります。
それらについて、ご紹介します。

副作用

経口から服用するタイプのイベルメクチンの主な副作用は、以下のとおりです。

・そう痒、発疹、蕁麻疹肝機能異常(AST(GOT)上昇、ALT(GPT)上昇
・総ビリルビン値上昇、γ-GTP上昇)、BUN上昇
・下痢、食欲不振、便秘、腹痛
・めまい、傾眠、振戦
・貧血、好酸球数増加
・無力症、疲労、低血圧
・気管支喘息の増悪
・LDH上昇 など

重い副作用は、以下のとおりです。

・重い皮膚・粘膜障害:発疹、発赤、水ぶくれ、うみ、皮がむける、皮膚の熱感や痛み、かゆみ、唇や口内のただれ、のどの痛み、目の充血、発熱、全身けん怠感
・肝臓の障害:だるい、食欲不振、吐き気、発熱、発疹、かゆみ、皮膚や白目が黄色くなる、尿が茶褐色。
・血小板減少:鼻血、歯肉出血、血尿、皮下出血(血豆・青あざ)、血が止まりにくい。
・意識障害:昏睡、意識レベルの低下、意識変容状態等。

また、イベルメクチンクリームの主な副作用は、以下のとおりです。

・刺激感
・発疹
・赤み
・かゆみ
・紅斑
・皮膚の剥離

注意点

イベルメクチンは、以下にあてはまる方は使うことができません。

・ロア糸状虫による重度感染を併発している患者
・オンコセルカ症又はロア糸状虫症を併発している患者
・易感染性患者(HIV感染者やHTLV-1感染者等も含む)

・妊婦、授乳婦
妊娠中の方への投与は安全性が確立されていません。
妊娠または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回る場合にのみ投与してください。
また、ヒト母乳中に移行することが確認されているため、イベルメクチン服用中は授乳しないでください。

・小児等
小児に対する投与は安全性が確立されていません。特に体重15kg未満の小児には投与しないでください。

・高齢者
一般的に高齢者は、肝臓、腎臓、心機能が低下している場合が多く、合併症又は他の薬剤を併用している場合が多いため、投与は慎重におこなってください。

これらのほか、副作用で意識障害が報告されているため、車の運転や高所での作業などの危険をともなう作業をおこなう際は充分に注意してください。

よくある質問

よくある質問

イベルメクチンについて、よくある質問をご紹介します。
イベルメクチン使用にあたっての疑問や、不安を取り去ることができれば幸いです。

イベルメクチンは市販で購入できる?

イベルメクチンを購入する際は、医師の診察を受けて、処方箋をもらわなくてはなりません。
イベルメクチンは、日本では「処方箋医薬品」に指定されているため、薬局やドラッグストアなどで市販薬として購入することはできません。

「処方箋医薬品」とは、医師の処方箋をもとに薬剤師が調剤して、購入することができる医薬品のことです。
調剤薬局でお金さえ出せば買えるというものでもなく、あくまで医師の処方箋が無いと購入することができません。

イベルメクチンは保険適用される?

イベルメクチンは腸管糞線虫症または疥癬の経口治療薬として、国内承認されています。
そのため、保険適用されるのは腸管糞線虫症または疥癬の場合のみとなり、承認されている効果・効能以外の目的で使用した場合は保険適用外となります。

たとえば、酒さの治療薬としては承認されていないので、酒さの治療にイベルメクチンクリームを使う際は、保険は適用されません。

イベルメクチンの外用薬は長期使用しても大丈夫?

イベルメクチンは、長期間の使用ができます。
海外での臨床試験では、1年間連続で使用しても問題が無かったことが報告されています。

イベルメクチンの外用薬は、海外では酒さに対しての使用が推奨されていますが、1年間にわたる研究において、継続的な症状の改善と安全性が確認されています。

ただし、イベルメクチンは即効性のある医薬品とされているため、使用していても改善が認められない場合は、医師の診察を受けることをおすすめします。

まとめ

イベルメクチンは、疥癬と腸管糞線虫症の治療薬です。
酒さの治療薬としては承認されていませんが、保険適用外でイベルメクチンクリームを用いることがあります。

もともとは、家畜動物のヒゼンダニや糞線虫などの寄生虫駆除や、熱帯地域で問題となる人間の下線盲目症などの、寄生虫による疾患の治療薬として用いられてきました。

イベルメクチンは効果が高いうえに、安全に使用することができる医薬品ですが、承認されていない使用については注意すべき点があります。

かつて話題になりましたが、新型コロナウイルスの治療薬としては承認されていないばかりか、現在では有効性も認められていません。

どんな医薬品にも言えることですが、情報を精査して、自分に合ったお薬を見つけることが大切です。

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