老犬の終わらない介護は、愛情深い飼い主さんほど心をすり減らしてしまいます。
毎晩の夜泣き、うまくいかない排泄、仕事との両立。
気づけば余裕を失い、「もう限界かもしれない」と感じる飼い主さんは少なくありません。
でも、あなたがそこまで悩んで疲れ果てているのは、これまで愛犬に全力で向き合ってきた証拠です。
一人で抱え込まず、肩の力を抜いて乗り切るための現実的なアイデアを一緒に見つけていきましょう。

動物介護士の資格者で、ペットのお薬通販『ぽちたま薬局』のスタッフ。犬の飼育経験は10年以上で、保護犬の里親経験を持つ。持病をもつハイシニア期の愛犬2頭をワンオペでお世話している。
目次
老犬介護ノイローゼを引き起こす3大要因
多くの飼い主さんが直面する老犬介護の悩みをひも解くと、共通する3つの大きな要因が見えてきます。
慢性的な寝不足
介護の中で最も飼い主さんの気力を奪うのが、細切れになる睡眠です。
夜泣きや徘徊、体の痛みを訴える愛犬の呼び出しに応えるため、1〜2時間おきに起こされる飼い主さんは決して少なくありません。
睡眠不足が続くと、判断力や感情のコントロールが効かなくなります。
思考もまとまらず、日中に強い倦怠感や頭痛を覚えるなど、心身ともに悲鳴を上げ始めます。
仕事との両立
慢性的な寝不足を抱えながら仕事をこなすのは至難の業です。
仕事中は「苦しんでいないか」と不安になり、夕方になれば「早く帰ってあげなきゃ」と焦りを感じる。
介護と仕事の責任感に挟まれ、精神的な孤独感が深まっていきます。
残念ながら、人間の介護休業制度は犬には適用されません。
制度に頼れない分、工夫と周囲の理解がカギになります。
先が見えない不安
老犬介護には、回復に向かうゴールがありません。
「この生活があと数ヶ月、もし数年続いたら自分の体がもたない」という恐怖に苛まれている飼い主さんも少なくないのではないでしょうか。
出口が見えない暗闇の中を走り続けるようなプレッシャーが、飼い主さんの心を静かに追い詰めていくのです。
老犬介護を乗り切る現実的なアプローチ
老犬介護のつらさは、工夫をすることで軽くできる部分もあります。
ここでは、今日から試せる方法をご紹介します。
鎮静剤や防音小屋の活用

介護で最も多いのが、夜泣きによる悩みです。
老犬特有の激しい夜泣きは、飼い主さんの努力だけで抑えきれるものではありません。
こうした夜泣きには、鎮静剤などのお薬で対処できる場合があります。
お薬を使うことに抵抗を感じるかもしれませんが、近年では自然な眠りを促す安全性の高いものも増えています。
限界を感じたら、我慢をせず動物病院へ相談してください。
また、防音性の高い犬小屋も有効です。
“電車の車内レベルの音”が“静かな事務所レベル”にまで抑えられる商品もあり、夜間の強い味方になるかもしれません。
「近所迷惑になったらどうしよう」という焦りは、飼い主さんの精神的負担をさらに大きくします。
夜間の興奮が激しいときは、お薬や防音アイテムも検討してみてください。
夜泣きに使われるお薬は、こちらのコラムで解説しています。
「働きながら」を叶える工夫

まずは在宅勤務やフレックス制度を利用できないか、会社に相談してみるのもひとつの方法です。
もし難しい場合でも、文明の利器をフル活用して仕事中の不安を減らしましょう。
- ペットカメラの設置
スマホを使ってペットの様子をチェックできる - スマートリモコンの利用
スマホでエアコンを操作して室温・湿度を管理できる - ウェアラブルデバイスの利用
愛犬に装着させ、睡眠・呼吸などを確認できる - 円形サークルの導入
体をぶつけないよう柔らかい円形サークルの中で留守番させる - ペットシッターの利用
寝返りやオムツ交換だけでもお願いする
完璧な留守番を目指すのではなく、危険を最小限に抑える環境づくりを意識しましょう。
働きながら介護をした飼い主さんの体験談は、記事後半でご紹介しています。
獣医師や介護のプロを頼る
介護の手が足りないときは、老犬ホームや動物病院の一時預かり(ショートステイ)を検討してみてください。
数日間、あるいは数時間だけでも、まとまった睡眠をとって体を休めることで、また温かい気持ちで愛犬に向き合いやすくなります。
飼い主さんが体調を崩したときの一時避難先としても活用できるため、平時に一度試してみることをおすすめします。
また、プロの知恵を借りることで、目からウロコが出るような介護のアイデアをもらえるかもしれません。
老犬介護に多い悩みごと
日々の介護の中で、多くの飼い主さんが頭を抱える具体的なシーンと解決のヒントをまとめました。
- 愛犬が夜中に寝ないときの対処法は?
- 立てない老犬を留守番させて良い?
- イライラして八つ当たりしてしまうときは
- うんちまみれを防ぐ方法は?
- 家族の協力が得られずワンオペに…
- 「早く死んでほしい」と感じてしまう
愛犬が夜中に寝ないときの対処法は?
A. まずは生活習慣の改善を。難しいときはお薬も視野に検討しましょう。
夜間の睡眠を促すには、次のような生活習慣を実践してみましょう。
- 朝はカーテンを開けて日光を浴びる
寝る時間に睡眠ホルモンが出やすくなる - 昼間に外を散歩する
抱っこや車いすでの散歩でも十分 - 室内で運動する
ぐる活をするなど、安全な方法で行う - 優しくマッサージして筋肉をほぐす
筋肉が固まると痛みで寝られないこともある

それでも夜寝てくれない場合は、我慢をせずに獣医師にお薬の相談をしたり、防音アイテムを活用したりしましょう。
前述のとおり、飼い主さんの努力だけでは限界があることも事実です。
無理をせず、利用できるものはすべて利用していきましょう。
立てない老犬を留守番させて良い?
A. できれば避けたいですが、やむを得ない場合は工夫しましょう。
自力で寝返りが打てない状態での留守番は、同じ部位に体重がかかり続けることで褥瘡(床ずれ)ができたり、吐き戻しによる窒息のリスクが高まります。
やむを得ず留守番をさせる際は、体圧分散効果のある介護用マットを敷き、体勢が崩れないようクッションでサポートしましょう。
長時間になるときは、家族や知人、ペットシッターに途中で訪問してもらい、寝返りをさせてもらうと安心です。
イライラして八つ当たりしてしまうときは
A. 一度、その場を離れましょう。
介護疲れで感情が爆発しそうになるのは、あなたが限界を超えて頑張っている証拠です。
自分を責める必要はありません。
しかし、イライラしながらお世話をすると思わぬ事故につながることがあります。
愛犬をサークルなどの安全な場所に置いたら、一度その場を離れて別室へ行きましょう。
深呼吸をして温かいお茶を飲むなど、物理的に距離を置いて心を落ち着かせることが最優先です。
うんちまみれを防ぐ方法は?
A. おむつの穴をテープで狭めるなどの工夫をしてみましょう。
尻尾の穴から漏れてしまうときは、サージカルテープなどを使って穴を狭める工夫が有効です。

尻尾の下側から漏れるときは穴の下側を、サイドから漏れるなら穴の両側をテープで留めて少し狭めます。
このとき、愛犬の尻尾の毛をカットして毛量を減らしておくと、小さな穴からも出しやすくなり、排泄物も付きにくくなって便利です。
このほかにも、次のような工夫もできます。
- おむつの内側に生理用ナプキンや尿取りパッドを敷き、おむつの穴からナプキンを少し引き出すようにして尻尾を出す
- 人間用のおむつを使う場合、尻尾の穴は小さめにバッテンに切り、ポリマーが出ないよう周囲をテープで固定する
また、お腹周りや足周りのすき間から漏れてしまう場合は、マナーウエアを重ねて履かせたり、ギャザーが強めの人間用おむつを使ったりすると緩和できます。
愛犬にフィットするやり方は、骨格や肉付き具合によっても変わってきます。
少しずつ試してみて、愛犬に合った方法を探してみてくださいね。
家族の協力が得られずワンオペに…
A. まずは小さなタスクから任せましょう。
家族に理解してもらえない孤独感は、心をすり減らします。
まずは「夜のシーツ交換だけ」「朝のご飯出しだけ」など、具体的で小さなタスクを家族に任せてみるのもひとつの方法です。
それでも家族がまったく理解を示そうとしない場合、話し合いをすること自体が余計にあなたの心を傷つけることになりかねません。
一人で完璧を目指さず、動物病院や介護サービスなど外部のプロに頼ることを検討しましょう。
理解しない家族を説得するよりも、あなた自身の休息時間を優先してください。
「早く死んでほしい」と感じてしまう
A. ひとりで抱え込まず、つらい気持ちを相談してみましょう。
寝不足と疲労がピークに達したとき、ふと頭をよぎる「早く楽になりたい」「早く死んでほしい」という感情。そのあとに襲ってくる猛烈な罪悪感に、胸が潰れそうになっていませんか?
しかしその感情は、「愛犬がいなくなってほしい」のではなく、「今の辛すぎる状況から解放されたい」という心の悲鳴です。
限界までやってきたからこそ辿り着く感情であって、決してあなたが冷酷なわけではありません。
ひとりで抱え込まず、動物病院の先生やスタッフ、信頼できる人にその辛い気持ちを吐き出してくださいね。
ペットの安楽死について
「愛犬を安楽死させてあげるべきか…」という葛藤は、多くの飼い主さんが直面する大きな問題です。
ペットの安楽死に一律の基準はありません。
しかし、その中でも終末期ケアの考え方のひとつとして、米国で考案された「HHHHHMMスケール」というものがあります。以下の7項目をそれぞれ0〜10点で評価する方式です。
- ・Hurt(痛み・呼吸のしやすさ)
- ・Hunger(食欲・摂食状況)
- ・Hydration(水分補給の状態)
- ・Hygiene(衛生・床ずれの有無)
- ・Happiness(喜びや反応性)
- ・Mobility(自力歩行の可否)
- ・More good days than bad(良い日が悪い日より多いか)
合計35点を下回ると、ペットの生活の質(QOL)が損なわれている状態と判断されます。
もちろん、35点を下回ったからといって安楽死が選択されるものではありません。
あくまでも、愛犬のQOLがどの程度保たれているかを獣医師と一緒に確認するときの参考になるものです。
延命治療を行うことも、緩和ケアへ切り替えることも、どちらも愛犬に対する立派な愛の形です。
飼い主さんの心を守る「考え方」
介護において最も避けるべきなのは『SNSで見かける手厚い介護と自分を比べること』です。
毎食手作りフードを与え、高価な酸素ボックスに寝かせ、24時間体制で介護をする---そんな投稿を見ると、つい劣等感を抱いてしまいますよね。
しかし、「できる範囲」は人それぞれ違って当然。
あの人がやっているからと言って、あなたもやる必要はないのです。
目指すべきは100点の介護ではなく、『共倒れにならないための60点の介護』です。
飼い主さんの殺伐とした気持ちは、愛犬にも伝わります。
だからこそ、あなた自身が気持ちに余白を持っておくことが大切なのです。
あなたなりの愛情をかけてあげられれば、それで充分。上手に手を抜くことも、愛犬への愛情になるんですよ。
老犬介護の体験談「わたしはこれで乗り切った」
同じように葛藤し、悩みを乗り越えてきた飼い主さんたちのリアルな声をご紹介します。
働きながらの介護…、割り切りも必要
「ペットカメラで職場でも愛犬の様子を確認していました。
万が一のときは間に合わないかもしれないけど、それでも早く帰れるように周囲に事情を説明しておきました。結局旅立ったのは休日でしたが、仕事中は身を切られるような思いでした。悲しいけれど、生活のためには割り切りも必要だと感じています」
1時間の“ぐる活”で工夫を
「認知症で昼夜問わず吠えていました。ウロウロしては、どこかに挟まって泣き叫んだり。
SNSを見ると同じような人がたくさんいて、夜中に介護している人は意外と多いんだなと思いましたね。ひとりじゃないことが支えになりました。
ちなみにうちの子は、寝る前に1時間くらい“ぐる活”すると、ちょっと長めに寝てくれてました」
防音犬小屋に救われた
「夜中の要求吠えに耐えかねて、防音の犬小屋を置きました。
家の中では聞こえるけど、外に出ちゃえばほとんど聞こえず、とにかく近所迷惑の心配がなくなったのが大きかったです。
多少泣いても「はいよ~」とゆるく対応できるくらいの余裕はできました」
飼い主が先に逝くのでは…と
「睡眠時間は3~4時間。疲労も限界で、飼い主の方が先に逝くのではと本気で考えました。
愛犬の体調がいよいよ悪化したこともあって、最後は安楽死を選びました。
とても耐えがたい経験でしたが、愛犬のつらそうな姿を思うと正しかったと思えます」
インターネットでは「介護できることに感謝をもって」という意見も見られますが、実際に直面するときれいごとでは済まされない現実もあります。
老犬介護は、飼い主さんの健康あってのもの。工夫をこらして、身体的・精神的な負荷を少しでも減らしてほしいと切に願います。
あなたが倒れないために…力を抜いた介護を
老犬介護で何よりも一番大切なのは、愛犬のケア以上に「あなた自身が健康で、倒れないこと」です。
便利グッズを買うこと、お薬やサプリメントの力を借りること、プロに預けることは、冷酷なことでも愛情不足でもありません。愛犬と最後の瞬間まで笑顔で寄り添い続けるための賢い選択です。
今夜は少しだけ肩の荷を下ろして、がんばっている自分をたくさん褒めてあげてくださいね。
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